みならい化学屋の実験室

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サバがマグロを産むかも!?代理親魚生殖技術とは


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マグロ!

蛙の子は蛙

つまり、性質、形質は親から引き継がれるということである。

そのためかえるは勿論、ブタの子はブタであるし、人の子は人である。

自然の摂理であるはずのこれを覆す研究が行われている

目次

代理親魚生殖技術

その覆す研究とは

小型の魚に大型の魚の卵を産ませる研究

である。

なんと自然の摂理であるはずの蛙の子は蛙であるが

魚類においてはある操作を行うことで他の魚の子を生ませることができるというのだ。

概要

もともとマグロ、特にクロマグロのような大型の魚は卵からの養殖が非常に困難であった。

なぜなら大型の魚は非常に重いため卵を得るのが難しいこと、そして産卵回数を増やせないことが理由としてはある。

そしてその解決法として大型魚の始原生殖細胞、あるいは精原細胞を未熟な小型魚の腹腔内に移植することで代理出産させる方法が考えだされた。

小型魚を選択するのは飼育が容易であるからである。

大型の魚の養殖の必要性

なぜ、大型の魚の養殖が必要となっているのか

それは資源量が低下しているからに他ならない。

ここでクロマグロを例に挙げてみよう。

クロマグロはかつて太平洋において1960年代初頭には14万トンの資源量を誇っていた。

しかしながら徐々にその資源量は低下していき、1984年には歴史的最低値1.9万トンまで落ち込んでいる。

なお、徐々に回復して入るものの2012年は2.6万トンとなっている。

しかし、これは1960年代初頭の2割弱しかない。

さて、一気に資源量を回復させる方法としてはどのような方法があるか

極論としてクロマグロを採らなければよい。

しかしながら日本の和食という食文化においてクロマグロを食べないと言うのは不可能に近い

また、経済的な損失も大きいと考えられる。

その為、クロマグロを食べつつ、資源量を増加させるためには養殖の必要性が高いのである。

この技術のキモ

さて、技術に話を戻す。

この技術のキモとしては

他種の生物の始原生殖細胞を移植したときに反応を起こさないか

それが始原生殖細胞として正しく機能するか

小型の魚の始原生殖細胞も残っている場合に本来もともとの卵をうまないのか

精原細胞を移植したときに卵はどうなるのか

の4問題が挙げられる。

他種の魚類の生殖細胞を移植したときに反応を起こさないか

反応と言うのは免疫反応である。

臓器移植の場合でも知られているが、他個体由来の組織・細胞を移植すると免疫系による拒絶反応が出ることが知られている。

本来魚は下等脊椎動物であり、免疫系も未分化・不十分と考えられていた。

しかしながら近年の研究により魚も我々ヒトのような高等脊椎動物に匹敵する高度な免疫系を持っていることが分かったのである。

つまり、魚でもこの反応が出ることが容易に考えられるのである。

これをいかにに解決したのか

未熟な小型の魚類に移植する

と言う方法である。

孵化されたばかりの稚魚は免疫系が十分に確立されていないのでこの反応が出ないのである。

なお、代理親魚は同属でなくてはならないという条件がある。

マグロの場合はサバ属であるためサバにマグロを産ませることも出来るかもしれないのである。

それが始原生殖細胞として正しく機能するか

腹腔内に移植された始原生殖細胞が拒絶反応を起こさない仕組みまではお分かりいただけたと思うが

これがいったいどうやって始原生殖細胞として正しく機能するのであろうか。

驚くべきことに腹腔内に移植された始祖生殖細胞は自力で生殖腺まで移動するのである。

その後、移植先の生殖腺に取り込まれて卵もしくは精子に分化し、正しく機能するというのだから生命の神秘にはすばらしさを感じざるを得ない。

小型の魚が自分の種の卵をうまないのか

生殖腺にはまだ本来の始祖生殖細胞が残っているはずであり、もともとの種の卵を産む可能性も十分にあるのである。

この可能性をどうやって排除しているのか

これは不妊の小型魚を利用しているのである。

本来、生物の染色体は2本1セットであり、生殖細胞が出来るときに減数分裂を起こして1本に分かれる。

その後、卵と精子が受精して2本1セットに戻る。

しかし何らかの原因で3本になってしまうことがあり、この個体は不妊となる。

この3本の染色体を持つ小型魚を特定の処理をすることにより人工的に作り出したものを利用している。

そのため自分の種の卵は産まないのである。

精原細胞を移植したときに卵はどうなるのか

この方法は精原細胞を移植しても可能とされている。

本来、精原細胞は精子の元となる細胞であるから卵には分化しないはずである。

しかしながらこの技術の研究中の発見として精原細胞を雌の稚魚の腹腔内に移植すると卵になるということが全動物中で初めて発見されたのである

そのため精原細胞も利用できるのである。

まとめ

クロマグロを初めとする大型の魚は資源量が一時期に比べると大幅に減少してしまっている。

これはもしかしたら和食ブームや健康食ブームなどで日本以外にも魚を食べる人が増えたのも原因の一つとしてあるかもしれない。

それに対処するのはやはりもともと大型の魚を大量に消費していた日本なのであろう。

実際この技術は日本の機関が研究したものである。

マグロの養殖と言えば近大マグロも記憶に新しい。

日本の食文化とともにマグロを始めとした大型の魚も次世代に残していけたら・・・と考えてやまない。